ベルトルッチ特集 A『革命前夜』


ブルジョワ階級でありながらマルクス主義に傾倒する若者が、自らのイデオロギーのあり方に苦悩する姿を描いた青春映画。ベルトルッチの反自伝的映画とも言われている。

中江裕司 ベルトルッチを語る その1

『天才は崖から落ちるんだよ!』

天才ってほんとに少ないんだけど居るんだよ。そして、みんな天才の真似をして失敗する。鈍才は鈍才のやり方をするしかない。天才は特別な存在だから。ベルトルッチは、ほんとに数少ない天才だよ。画のキレを見ればわかる。21歳『殺し』(※1)でデビューして、『革命前夜』を撮ったのが23歳でしょ。『市民ケーン』(※ 2)のオーソン・ウェルズ(※3)でさえ、25歳デビューだからね。師匠がパゾリーニ(※4)というのが、またすごいよね。反キリスト精神で撮った『ソドムの市』(※5)は気持ち悪いシーンが続き過ぎて、途中で吐きそうになるゲロゲロ映画なんだけど、とてつもなく崇高な美しさを持った映画でもある。ゲスと崇高は紙一重だよ。そんな師匠の下に二十歳ぐらいで居たんだから、すごいに決まってるでしょ。『革命前夜』を見ると、ベルトルッチは共産主義者なんだろうね。でも、とてつもなくファシズムにもあこがれている。映画にファシズムが似合うことを、よくわかっているよね。思想性とか、社会性とか考えると、ベルトルッチはとても不謹慎なんだよ。共産主義者のくせにファシズムに憧れたような映画を撮るんだから。主義主張もあるんだろうけど、それより映画の美しさに捕らわれているね。それが、ベルトルッチの映画が映画史に残る理由でしょう。映画は主義主張じゃないからね。面白いものか、美しいものしか映らないよ、映画は。

その2に続く

注1)ベルトルッチ 処女作。1962年発表。師匠パゾリーニが原案。
注2)オーソン・ウェルズが、初めて撮った映画。映画の構成力や撮影技術が高いだけでなく画期的で、その後の映画業界に大きな影響を与えた。
注3)アメリカの映画監督・脚本家・俳優(1915-1985)。10代の頃から俳優、ラジオドラマや演劇のディレクターをこなした天才。