ベルトルッチ特集 D『暗殺の森』


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反ファシズム運動家の大学教授の殺害を命じられた主人公の孤独な青年が、教授の若くて美しい夫人に心を奪われる。ベルトルッチ史上最高傑作との呼び声が高いのが本作。

中江裕司 ベルトルッチを語る その2

『天才は崖から落ちるんだよ!』

その1はこちら

映画青年たちが夢中になったのは『暗殺の森』だね。ほんとうに画面がキレキレ。この時にしか撮れない画を撮っている。撮影のストラーロ(※6)との共犯がたまらないね。ジャン・ルイ・トランティニャン(※7)が電話をするシーンがあるんだけど、その電話番号が当時のゴダール(※8)の電話番号らしい。ゴダールが大好きだったんだろうね。ゴダールより、天才なのにね。森のシーンは、天才にしか撮れないシーン。絶対に見ないといけないシーンなのか、今でも目の奥に焼き付いているよ。
だけど、私が好きなのは『ラストタンゴ・イン・パリ』なんだな。ベーコン(※9)の絵のオレンジの光が全編を支配していて、マーロン・ブランド(※10)が素晴らしくいい。ダメ男の象徴だね。男はどこの国でも、いつの時代でもダメなんだけども。ベルトルッチとストラーロにかかると、パリがなまめかしく映るんだよ。内容は、中年男が若い女に夢中になって、難しいことをいろいろ言うんだけど、要は犯したいだけなんだよ。しかも、尻を犯すんだよな。このへんは、ゲロゲロの師匠譲りなんだろう。師匠のパゾリーニは汚さの中から、崇高な美しさが立ち上がったけど、ベルトルッチは汚くならないんだよ。どこまでも美しい。最後の方に、これぞベルトルッチの真骨頂というダンスシーンがあるんだよ。これが、また映画史に残る美しさ。このシーンをうっとりと眺めるだけで、この映画は価値があるよ。

その3に続く

注6)イタリア出身のカメラマン(1940-)。ベルトルッチ との名コンビは有名。照明に独自の哲学があり、「光で書く」「色は象徴である」等の名言がある。
注7)フランス出身の名優(1930-)。「暗殺の森」主演。近年だとミヒャエル・ハネケ作品での怪演が話題を呼んだ。
注8)ジャン=リュック・ゴダール(1930-)フランス出身の映画監督、編集技師、映画プロデューサー、映画批評家、撮影監督、俳優、ヌーベルバーグの旗手、シネフィルたちの兄キ。難解な作風で有名。4月に新作「イメージの本」が全国順次公開中。
注9)本名:フランシス・ベーコン(1909-1992)。ターナーに並ぶイギリス最大の画家。ベーコンといえばオレンジ色。
注10)アメリカ出身。20世紀最高の俳優(1924-2004)。