【15作品一挙上映!】ハードボイルド・ノワール映画祭
- 公開予定日
- 2026年10月03日(土)
- 作品情報
- アメリカ・イタリア
- 公式サイト
- https://www.ks-cinema.com/movie/hardboilednoir/
【A】『ガラスの鍵』
1942年/アメリカ
監督:スチュアート・ヘイスラー 原作:ダシール・ハメット
出演:アラン・ラッド/ヴェロニカ・レイク/ブライアン・ドンレヴィ
上院議員の息子が路上で殺されているのが発見される。彼は借金を抱え、家族に迷惑をかけていた。議員の選挙を支援し、その美しい娘に惚れてもいた街のギャングが疑われ、その右腕である主人公は事件の真相解明に乗り出す。
原作では人物の心理が一切記述されず、主人公の行動のみが描かれる。徹底した外面描写はハードボイルドの極北と言うべく、原作者ハメットも自作の中で最も気に入っていた。原作における、主人公が何を考えているのかも、彼が実のところ誰の味方なのかも分からない曖昧な境地はほとんどノワールだが、映画の方は美男美女ラッド=レイクのおかげで世界の構造は明快である。ただし、主人公を嬉々として拷問し、その後も、こいつは俺に殴られるのが大好きなんだと主人公に粘着的に絡む三下、ウィリアム・ベンディクスの陰惨さが映画を黒く染める。
【B】『市街』
1931年/アメリカ/83分
監督:ルーベン・マムーリアン 原作:ダシール・ハメット
出演:ゲイリー・クーパー/シルヴィア・シドニー/ポール・ルーカス
恋人に女好きのボスが横恋慕、主人公はボスと対決しようとするが、ボスは嫉妬した情婦に殺される。疑いは恋人にかかり…。
純朴なクーパーと可憐なシドニー。冒頭のトラックのタイヤの回転から密造酒製造の泡、その泡から死体が投げ込まれる川の水泡への繋ぎを始め、主人公らがデートする海岸、刑務所での金網越しのキス、さらにラストの崖での車の疾走など、視覚的演出が見事。「悪く思うな」のセリフの繰り返しも効いている。
【C】『影なき男』
1934年/アメリカ/92分
監督:ウィリアム・S・ヴァン・ダイク 原作:ダシール・ハメット
出演:ウィリアム・パウエル/マーナ・ロイ
元探偵ニックは妻ノラと共にクリスマス休暇でニューヨークのホテルに滞在中。そこに富豪の発明家の失踪事件が持ち込まれる。乗り気でないニックだが、興味津々のノラに引きずられ、事件解明に腰を上げる。
明朗快活、裕福な生活を送るブルジョアの夫婦は観客たちの憧れの的であり、ミステリー・コメディとして大ヒット。四作も続編が作られた。タフガイ探偵とは程遠く、「名探偵皆を集めてサテと言い」そのままに謎解きして見せる。
【D】『ブロンドの殺人者』
1944年/アメリカ/95分
監督:エドワード・ドミトリク 原作:レイモンド・チャンドラー
出演:ディック・パウエル/クレア・トレヴァー/アン・シャーリー
チャンドラーにおけるフィリップ・マーロウは、薄汚い社会を傍観しながら、その中に一かけらの真情を見つけ出す感傷的な騎士であるが、チャンドラー初の映画化である本作におけるマーロウは、徹頭徹尾無力、状況に小突き回される哀れな存在である。冒頭、夜の警察の取調室(スタンドでそこだけ強く照らされた机の真っ白い表面の俯瞰が異様)で尋
問されるマーロウは、白い包帯を目に巻き付けている。彼は盲目の存在であり、それはこの冒頭だけでなく事件の終始そうだったのだと、彼のモノローグで綴られるフラッシュバック映像で明らかになってゆくのである。
原作にあった大男の切ない心情は欠片もなく、本作はその暗い世界観において確かにノワールと言える。『深夜の告白』(チャンドラーがシナリオに参加)、『ローラ殺人事件』、『飾窓の女』、『幻の女』と同じ44年作で、フランス人がフィルム・ノワールなる言葉を創出するきっかけとなった作品群の一本。
【E】『湖中の女』
1946年/アメリカ/103分
監督:ロバート・モンゴメリー 原作:レイモンド・チャンドラー
出演:ロバート・モンゴメリー/オードリー・トッター/ロイド・ノーラン
出版社社長の失踪した妻を捜索するよう依頼されたマーロウの行程を追う。
本作の一番の売りは、原作の一人称の語りを映画的に敷衍し、全編を探偵の視点で語った実験性である。つまり彼の見ているものしか画面には現れず、ゆえに探偵自身も、鏡の中にしか映らない。ロバート・モンゴメリーのマーロウは騎士的というよりシニカルで、人を小馬鹿にしたような笑い声が耳につく。彼はその後傑作ノワール『ピンクの馬に乗れ』を撮る。
【F】『青い戦慄』
1946年/アメリカ/99分
監督:ジョージ・マーシャル 原作:レイモンド・チャンドラー
出演:アラン・ラッド/ヴェロニカ・レイク/ハワード・ダ・シルヴァ
戦争から帰った軍人、妻は酒におぼれ、男を作っていた。彼女と別れることを決意するが、妻が射殺体として発見される。
妻、愛人の男、その手下、妻の住むホテルの探偵、身を隠そうとしたホテルの主など、出てくる人間がみな悪人というペシミスティックな世界はいかにもチャンドラー(本作はチャンドラーのオリジナル脚本)。『拳銃貸します』、『ガラスの鍵』に続くラッド=レイクのコンビ作。W・ベンディクスが不穏な存在感を発揮。
【G】『キッスで殺せ!』
1955年/アメリカ/106分
監督:ロバート・アルドリッチ 原作:ミッキー・スピレイン
出演:ラルフ・ミーカー/ギャビー・ロジャース
深夜の路上を裸足で駆けていた女を主人公の探偵マイク・ハマーが車で拾うが、追跡してきたギャングに捕らわれ、女は拷問の末、ハマーと共に車で崖から突き落とされる。生き延びたハマーは、女の「私を覚えていて」という言葉に促され、彼女の正体を探り始めるが、その探索は女が隠していたらしき「何か」の争奪戦に変貌する。しかし探偵は、そして我々も、断片的な情報を与えられるのみで事態を一向に理解しないまま、あれよあれよとその「何か」が開くアポカリプスに向けて引きずられてゆく。
ローキー照明、長回し、異様なフレーミングとノワールのスタイルをほとんどパロディと見えるまでに強調した画面、そして典型的な、あまりに典型的なファム・ファタルの存在など、フィルム・ノワールの末期にあり、その爛熟を体現した異形のノワール。本作は、ハードボイルドやノワールという枠組みすら超越した、アメリカ映画が到達した一つの頂点である。
【H】『裁くのは俺だ』
1953年/アメリカ/87分
監督:ハリー・エセックス 原作:ミッキー・スピレイン
出演:ビフ・エリオット/プレストン・フォスター/ペギー・キャッスル
戦友が殺され、復讐を誓った探偵が関係者を訪ね回る過程で、死体が積みあがる。主人公はけんか腰で男を小突き回す一方、美人という美人は彼にキスをしたがる(双子の姉妹に色情狂の精神科女医)。暴力とセックスが売りのスピレインの最初の映画化。
探偵事務所の位置設定の奇妙さ、ローキーで荒々しいまでのモノクロが際立つカメラ(ノワールの名手ジョン・オルトン)、主人公と思えない風貌の主演男優など、B級らしさ満載。
【I】『殺人者』
1946年/アメリカ/103分
監督:ロバート・シオドマク 原作:アーネスト・ヘミングウェイ
出演:バート・ランカスター/エヴァ・ガードナー
田舎のダイナーに二人組の殺し屋が訪れ、毎夕訪れるある男を待ち伏せする。密かにその事実を知らされるも、男は一向に逃げようとせず、従容として殺される。男の過去に何があったのか、事態はフラッシュバックで語られる。
過去に支配され、未来の閉ざされた現在、闇の支配する空間、死を招くファム・ファタルと、フィルム・ノワールの世界観を凝縮した一編。シークエンス・ショットで撮られた銀行強盗は映画史上屈指の名場面。
【J】『破局』
1950年/アメリカ/97分
監督:マイケル・カーティス 原作:アーネスト・ヘミングウェイ
出演:ジョン・ガーフィールド、パトリシア・ニール
ヘミングウェイの原作『持つものと持たざるもの』の映画化としては、先にハワード・ホークス『脱出』がある。メキシコ湾で観光船を操業している男が不法な出航を強いられる点では共通だが、方や反政府組織に示す心意気で、方やギャングに脅されて、と設定が違う。
『脱出』と本作の違いが、必ずしも重ならないハードボイルドとノワールの差異をそのまま示している。本作の苦い後味こそノワールの神髄。助手が黒人の設定も痛切。
【K】『悪徳警官』
1954年/アメリカ/92分
監督:ロイ・ローランド 原作:ウィリアム・P・マッギヴァーン
出演:ロバート・テイラー/ジャネット・リー
ギャングと通じた悪徳刑事が、一味の弱みを握った、兄と違って決して賄賂に屈しない実直な警官である弟を殺され、復讐に立ち上がる。
豪華なセットを用いたゴージャスなミュージカルを得意とするMGMにとって犯罪ものは比較的レア。ここでもロバート・テイラーという二枚目俳優が悪徳刑事を演じるというギャップが魅力的な一編。復讐、ギャングの女が逆転の鍵を握る点、同じマッギヴァーン原作の『復讐は俺に任せろ』に通じる。
【L】『拳銃の報酬』
1959年/アメリカ/96分
監督:ロバート・ワイズ 原作:ウィリアム・P・マッギヴァーン
出演:ハリー・ベラフォンテ/ロバート・ライアン
出所した元警官が銀行強盗を計画、仲間として選んだのは、ヒモ暮らしに鬱屈した前科者と借金で首が回らない黒人歌手。しかし黒人嫌いの前科者ゆえに初めからギスギスしていた関係は、現場において(文字通り)爆発する。
当初フロントを立てて脚本を書いたのはノワールの傑作『悪の力』を撮ったエイブラハム・ポロンスキー。音楽はモダン・ジャズ・カルテットのジョン・ルイス。ジャン=ピエール・メルヴィル偏愛の傑作ノワール。
【M】『地獄の埠頭』
1956年/アメリカ/98分
監督:フランク・タトル 原作:ウィリアム・P・マッギヴァーン
出演:アラン・ラッド/エドワード・G・ロビンソン
殺人の冤罪で五年の刑期を食らった元刑事が、自分を陥れた黒幕を探る。
製作のジャガー・プロは主演のアラン・ラッドの製作会社で、ラッドはマッギヴァーン原作の演出を、自身の出世作『拳銃貸します』のフランク・タトルに託した。自身の保身のために甥を殺すことをためらわず、一の子分の妻に拒絶されて逆上、窮地に陥り一人逃亡しようとして妻に密告される卑小なエゴイストのボスを大御所エドワード・G・ロビンソンが演じる。
【N】『ミルドレッド・ピアース』
1945年/アメリカ/111分
監督:マイケル・カーティス 原作:ジェイムズ・M・ケイン
出演:ジョーン・クロフォード/アン・ブライス
深夜のビーチハウスに銃声が響き渡り、逮捕されたミルドレッドのフラッシュバックが過去を明らかにし始める。レストラン・チェーンを築き上げるまでにのし上がった女の細腕繁盛記は、彼女の稼いだ「油臭い金」を軽蔑しながらも湯水のように使いまくり、母の再婚相手にも色仕掛けするような娘の存在によってノワールへと変貌する。
トッド・ヘインズによってドラマ・リメイクされ、ジェンダーや階級という側面から再評価された。
【O】『エヴァの匂い』
1962年/アメリカ
監督:ジョゼフ・ロージー 原作:ジェームズ・ハドリー・チェイス
出演:ジャンヌ・モロー/スタンリー・ベイカー
ヴェネチア映画祭に招かれた労働者階級出身の新進気鋭の作家。婚約者も得て得意絶頂の彼は、しかし得体のしれない奔放な女エヴァに惹かれ、翻弄されてゆく。
階級差や偽作家であることからくる劣等感と自尊心のせめぎ合い。狙ったようにそこを揺さぶってくる女。よくある悪女ものが、ロージー特有の陰湿な心理戦に変貌する。始めはゴダールに持ち込まれた企画。映画祭の部分を撮ったのはヌーヴェルヴァーグのアンリ・ドカエ。
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